― 中国が主張する膨大な連行数 ―
⇒ 日本(内地)に連行
2014年2月26日、中国人37人が日本企業に対し、賠償と謝罪を求め、北京の中級人民法院(地裁)に集団提訴しました。
訴えた37人は、第2次大戦中に日本に強制連行され、炭鉱などで過酷な労働を強いられたとする元労働者とその遺族で、訴えられたのは旧財閥系の三菱マテリアル(旧三菱鉱業)と日本コークス工業(旧三井鉱山)の2社、要求内容は1人あたり100万元(約1700万円)の賠償金と謝罪広告の掲載などでした。
1972(昭和47)年9月、日中国交正常化にあたり、日中両政府が調印した共同声明で、中国は「日中両国民の友好のために、日本に対する戦争賠償の請求を放棄する」と宣言したはずでした。
しかし、江 沢民政権に代わった1990年代に入ると、中国の人的被害は「死傷者3500万人」にのぼったなどとする江発言が象徴するように、歴史問題をテコに中国政府の日本に対する態度は厳しさを増すようになります。
「個人の賠償要求を阻止しない」(1990年、銭 其琛外相)とする発言もその一環でした。ですから、今回の集団訴訟も中国政府が支持しているのは当然と考えなければなりません。
強制連行にかかわる集団訴訟等は、日中、日韓あるいは米中間の政治状況を見ながら、さらに規模の大きなものへと推移していくのはおそらく間違いないと思います。
というのも、中国の主張によれば、日本によって数百万人、数千万人が強制連行され、劣悪な環境のもとに働かされた結果、命を失った中国人は途方もない数にのぼっているからです。
現在(2023年前半)、表立った動きがないのは一時的現象で、中国国内、国外の状況しだいで一変するのはまず避けられないでしょう。また、「徴用工」問題で、政府間レベルではないまでも、互いに利用しながら韓中共闘は考えられることです。
今回の訴訟は日本国内(内地)への連行が対象になっているようですが、「強制連行」の範囲はこれにとどまりません。それどころか国内への連行数はほんの一部にしか過ぎません。
ですから、強制連行について、もっと視野を広げた事実関係を考える必要があると思うのです。
以下をご覧になって、「中国人強制連行」の全体像はこんなものだと知っていただければと思います。
・ 膨大な満州への「強制連行」
中国は満州などへの強制連行者数を400万人だの500万人といった膨大な数を出してきています。
中国の『国恥事典』(成都出版社、1992年)によれば、「三光政策」のもと、1941~1945年の間に318万人の無辜の民が殺害され、276万人が 強制連行されたと書いてあり、また、別の項には569万人が労働力として拉致されたといいますから、強制連行されたというのでしょう。
この膨大な連行数には驚かされますが、最近では4000万人説も登場しています。また、強制連行が「万人坑」とセットになっていることにご注意ください。
朝日新聞連載の「中国の旅」に登場したものや大同炭鉱など主要な万人坑については、別途、報告したとおりですが、ほかにも満州を中心にたくさんあるとされ、活字メディア等で報じられました。
これらが日本軍によるものではなく、炭鉱など民間経営のもとで起こった大量虐殺行為であることも合わせてご注意ください。
つまり、満州や中国本土に連行された中国人は、酷使されたうえ、使いものにならなくなると「ヒト捨て場」(万人坑)に投げ込まれ、殺害されたという筋書きです。おそらく、上記の膨大な数字は満州への連行が中心になっているものと思います。
ちなみに、「国恥」という言葉はよく使われ、たとえば、7月7日(盧溝橋事件の発生日)、9月18日(柳条湖事件)などを中国では「国恥記念日」としています。
・ 日本国内への強制連行
日本国内(内地)に連行された中国人に関しては、いわゆる「外務省報告書」があります。「強制・半強制」のもとで日本国内に連行された中国人に関するこの「外務省報告書」が発掘されると、大報道となり、アッという間にほとんどの教科書に採用されました。
報告書があることは以前からわかっていたのですが、行方がわかりませんでした。それを、NHK取材班が突きとめ、報道特集として放送すると同時に、『幻の外務省報告書―中国人強制連行の記録』として出版されました。
この報告書によれば、連行数は約3万9000人、日本の歴史教科書に載っている数字は、この「外務省報告書」が根拠です。
このほかに、「労工狩り」あるいは「ウサギ狩り」と称する強制連行の手段についての小島中尉証言など多数あります。
・ 全体を見渡せば
中国人強制連行の問題は、
1 日本国内への強制連行
2 満州および中国本土への強制連行
3 「労工狩り」「うさぎ狩り」と称する連行手段
4 「ヒト捨て場」万人坑
の4つは少なくとも絡んできます。
電子書籍 『検証 中国人強制連行と「中国戦犯」証言の信頼性』 発行のお知らせ
朝鮮半島の慰安婦問題、徴用工の問題、一向に収束の気配が見えません。慰安婦、労働者強制連行の問題は中国にもあります。しかもケタ違いの規模です(後者では4000万人説も)。
ですが、国民の関心はうすく、研究者が極端に少ないこともあって、事実解明が心細い状況です。
そこで現状を知っていただくために、論考「朝鮮人・中国人『強制連行』問題の起源」(勝岡寛次・明星大学戦後教育史研究センター、『歴史認識問題研究第3号』、2018)から次の下りをご覧に入れます。
勝岡は「保守派の文献で手薄なのは、中国人『強制連行』の批判である」として、次のように記します。
〈筆者の作成した文献目録で確認する限り、田辺敏雄のものしか存在しない。
「強制連行」派の中国人「強制連行」に関する文献は175点ほどあるわけだが、田辺の文献はそれに対して11点しかなく、
保守派の批判は“蟷螂の斧”のように孤立無援な戦いを強いられているのが実情だ。〉
保守派というのでしょうか、中国人強制連行問題を調査・検証し、現行の認識に異を唱える研究者が極端に少ないのは事実で、「中国人強制連行」の著作等を検索しても、異論を記した書籍、論考にまずお目にかかれません。175点に対して11点の反論では多勢に無勢、勝ち目がないのはほぼ確かです。
このままでは、いずれ問題化したときに戦う材料に乏しく、再度の惨敗(不戦敗)は免れないと思います。
そこで、このホームページで報告した事例に新たな材料を加え、「中国人強制連行」を支える「中国戦犯」証言を幅広く取り上げ、さらに関連する事項を系統的に書き残そうと思い、アマゾンから電子書籍『検証 中国人強制連行と「中国戦犯」証言の信頼性』を発行しました。
強制連行にかぎらず、「中国戦犯」の加害証言は多方面にわたるため、今日なお、われわれ日本人の歴史観に大きな影響を与えています。彼らの証言は信頼できるものなのか、また信頼性に欠けるとすればどの程度なのか、本書に提示した「決定的な証拠」によって、事の白・黒はハッキリするするはずです。
ここに記した「事実」がヒントになり、あるいは核となって、現在流通している「事実関係」の認定には根本的な欠陥が存することを知っていただく、と同時に現状認識を正すことがこの書の目的です。
2021年5月15日発行、約16万5000字、価格は316円(2.90ドル)です。
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