産経新聞主張

― 2008年 11月 1日付け ―
控訴審判決を受けて


  沖縄集団自決訴訟 判決と歴史の真実は別だ

 沖縄戦で旧日本軍の隊長が集団自決を命じたとする大江健三郎氏の著書「沖縄ノート」などの記述をめぐり、大阪高裁も同地裁同様、大江氏側の主張をほぼ全面的に認める判決を言い渡した。
 訴訟は、大江氏らが沖縄県渡嘉敷・座間味両島での集団自決は隊長の命令によるものと断定的に書いて隊長を断罪した記述の信憑(しんぴょう)性が問われた。
「産経 主張」  大阪高裁は「狭い意味での直接的な隊長命令」に限れば、大江氏らの記述に「真実性の証明があるとはいえない」としながら、出版当時(昭和40年代)は隊長命令説が学会の通説であり、不法行為にはあたらないとした。つまり、広い意味では、集団自決は日本軍の強制・命令とする見解もあるのだから、元隊長らの名誉を損ねていないという趣旨である。
 しかし、裁判で争われたのは、あくまで「直接的な隊長命令」の有無だったはずだ。判決は論理が飛躍しているように思える。
 大阪高裁は、産経新聞などが報じた隊長命令を否定する元防衛隊員や元援護担当者らの証言を「明らかに虚言」「全く信用できず」などと決めつけ、証拠採用しなかった。証拠に対する評価も、かなり一方的な判断といえる。
 この種の歴史的な叙述をめぐる名誉回復訴訟では、原告側は「一見して明白に虚偽である」ことを立証しなければ、勝訴できないといわれる。東京で争われた南京の“百人斬り”報道の信憑性をめぐる訴訟でも、原告側は敗訴し、朝日・毎日新聞に対する名誉棄損の訴えは認められなかった。
 だが、“百人斬り”が真実として認められたわけではない。報道に立ち会った元従軍カメラマンらの証言で、“百人斬り”はなかったことがほぼ証明されている。
 今回の沖縄戦集団自決をめぐる訴訟も、大江氏らに対する名誉棄損の法的な訴えが認められなかったに過ぎない。歴史的事実として集団自決が旧日本軍の隊長命令だったと確定したのではない。訴訟の勝ち負けと歴史の真実は、全く別の問題である。
 集団自決をめぐっては、作家の曽野綾子氏が渡嘉敷島などを取材してまとめたノンフィクション「ある神話の背景」で大江氏の記述に疑問を提起したほか、その後も、隊長命令説を否定する実証的な研究が進んでいる。これからも、地道な研究や調査が積み重ねられることを期待したい。